黒部の谷から見る21-22シーズンの雪崩の傾向

毎年この時期になると下ノ廊下の登山道整備に入っています。
黒部に通い出して9年、残雪が多い年も全くない年も見てきました。

今年は雪が多い

9年通った中でも2番目の雪の多さで例年であれば9月の頭から作業に入るが
今年は残雪多く、9月中旬からの作業開始となりました。

普通のシーズンであればここまで雪が残ることは無い

黒部の谷に雪が多いという意味

黒部の谷に残雪が多いという事はどういう事か考えてみたいと思う
確か8年前に残雪多く、登山道が雪に覆われ下ノ廊下が通行止めというシーズンがあった。

この年は降雪量も多く、雪崩も頻発していたように記憶している
(雪崩管理を始めた1年目、栂池で雪崩を切って切って切りまくった、あの頃は雪崩の事何もわからなかったな)

単純に降雪量が多ければ黒部の谷に雪が多いのか?

今シーズンの降雪量は並だったように思う。
では黒部の谷の残雪の多さは何で計るのかと言うと

雪崩の規模

数年前までは雪崩の回数だと思っていたがどうやらそうではないんじゃないか?と言う考えに至った。

黒部の谷を埋めた雪崩

降雪が多い→雪崩が頻発すると考えがちだが、そうではないんでは無いかと思う
別の機会にブログに書くが、21-22シーズンの大きな雪崩のイベント(雪崩のサイクル)は3回あったと思う

2月23日前後と
3月14日
4月8日

の3回(また詳しく書きます)

ここからは推測

黒部の谷を埋めた雪崩は3月14日の全層雪崩もしくは湿雪表層雪崩
4月8日の新雪層の湿雪表層雪崩で
厳冬期は雪崩はあまり出ていなかったのではないか?と言うのが私の推測です。

なぜそう言えるのかと言うと、今シーズンは低温が続いたためハイシーズンに雪崩が発生するような
条件には至らなかったように思う(事実八方尾根スキー場の雪崩管理では大きな雪崩は出なかった)

条件が至らなかったと言うのは寒暖差が無く、滑り面が形成されなかった。
初速が必要な自然発生雪崩、滑り面が無いと自然発生の雪崩は起こりにくいと考える。

推測を確信へ

なぜハイシーズンに雪崩が出ていなかったと推測したかと言うと

雪渓に氷の層が入っていない

例年であれば雪渓に氷の層が混じり、雪の硬度も硬いため雪解けが遅いのですが
今年は残雪が多い割に溶けるのが早い(8月末は通行止めになった年程雪があった)

着目するべきは均一に雪が溶けているということ

雪が均一に溶けていると言うことは一つの雪崩で雪渓(デブリ)が形成されたのではないか?と言う事が読み取れる

以上の事から黒部の谷を埋めた雪崩は春の湿雪雪崩では無いかと私は推測しました。

ハイシーズンに雪崩が頻発していたのであれば、乾雪雪崩では速度が違うため、もっと圧縮されて
硬度が増しているだろうと思う。

あくまで推測なので、この周辺の気象データが手に入らないと多くは言えませんが…

ブロック状に粉々に崩れる雪渓

もう一つ面白い現象を発見しました。
崩壊した雪渓が粉々に砕けているのです。

最初はあまり気にしていなかったのですが
こんなにも粉々に崩れる雪渓を今まで見た事あるかな?と考えたのですがあまり記憶にない
(まじまじと見て検証してきたわけではないですが)
雪渓の崩落として印象にあるのはデカい塊で崩落しているイメージでこんなにバラバラな物はあまり見た事がない(多少は砕けている)

この事から見えてくるのは
雪渓に氷が混じらず。硬度が低かったため(例年に比べ)
雪解けが早まり、雪渓の中に無数の水道が出来ており、崩落した際に粉々に砕けたのでは無いかと考えました。

黒部の谷から見る雪崩の傾向まとめ

シーズンを通し、低温が続いたため(立山の降雪量は例年通りか少し多いくらいだったはず)
積雪層に氷板は形成されなかった(標高が高いほど顕著、槍の小屋明けの時に氷板は1枚も入っていなかった)
寒暖差が無かったため、自然発生の雪崩は発生しにくい状況であった(2月23日までは)
雪渓から見るに溶け方が均一のため、ハイシーズンの雪崩はさほど発生していない
合わせて雪渓が崩落した際に粉々に砕けることから硬度が低いため、谷を埋めたのは速度の遅い湿雪雪崩の可能性が高い


以上の事から黒部の谷を埋めたのは

3月14日を起点に北アルプス周辺標高2000m以下で全層雪崩が頻発
4月8日に高標高帯で新雪の表層湿雪雪崩が頻発(前日までに30cmほどの降雪)

の2つの雪崩が主では無いかと私は考えました。

4月9日に山に入り、大規模なデブリを確認した時に今年の下ノ廊下は雪崩に埋め尽くされ通行止めになるんじゃないか?
と予測して当ブログにも書きました。

雪解けが早く予測は見事に外れました
(スタートが遅かったので作業自体は遅れているが開通しそうで良かった!)

たかが雪、されど雪
シーズン中は白馬で雪崩管理にあたり、雪を見て考え
春は槍ヶ岳の小屋開けで3000mの積雪をフルピットで掘りそのシーズンの稜線の積雪層を観察し傾向を捉える
秋に北アルプスの谷底での雪崩の傾向を見る

年柄年中雪のこと、雪崩の事を考えてはや9年

少しは雪崩の事が理解できるようになってきたみたいです。

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