人ならざるものと対話する者たち#3

ついに人ならざるシリーズも完結編の3話まできました。

1話、2話目をまだ読まれていない方は是非1話目から追いかけてきてください
3話目から読まれてしまうとすんなり入ってこない可能性がありますので…

人ならざるものと対話する者たち#1

人ならざるものと対話する者たち#2

雪崩が分からなくなった日々

2話では植物の声が聞こえるという自然農法家の三浦さんと
植物や雪の声に寄り添う雪崩の師、若林先生について書きました。

その頃の私と言えば、長年雪崩管理でお世話になった栂池高原スキー場を離れて八方尾根スキー場に場所を変え、新たな活動を始めた頃でした。

八方に行ってまず気付かされたのは本当に仲間に恵まれていた、ということ
当時の栂池ではアメリカ人の雪崩管理従事者(経験者)に雪崩管理の指導をしてもらったり

爆薬を使った雪崩管理の日本の第一人者だったり、とにかく経験者が集まっていて、本当に仲間に恵まれていたんだなと思う。

一人一人が自分で考え、判断して、行動を起こせるスペシャリストが集まっていた。
彼らとのコミュニケーションはとても心地良く、英語を話せない私でもアメリカ人とバディを組んでも阿吽の呼吸で管理を行うことが出来た。
それほど洗礼されたチームであった。

ある意味では鍛えられた環境でも、自分自身は仲間に助けられることでぬるま湯に浸かっていたのかもしれない
仲間に頼り、自分自身で考えるという事を放棄していた。

そんな調子で八方に移動したものだから、当初は本当にやられた
HAKUBA VALLEYの各スキー場の中でも八方は北アルプス側に入り込み標高も高く、スキー場上部は森林限界を超えて
気象条件が揃えばスキー場の中に居ながら冬山になる

若林先生に八方に移動することになりました!と報告しに行ったら「雪崩の本場に辿りついたね」と言われた。

栂池の樹林帯の中で雪崩管理をしていた自分にとって山そのものである八方での雪崩管理は未知の次元だったのです。

仮説、検証

当時は雪崩が出そうな日というのを感覚で把握していた。
感覚でやっている物だから予測が当たる日もあれば、外す日もある、こんなんじゃ仲間を危険に晒すだけだと何かいい方法はないかと日々悩んでいた。

八方尾根スキー場は風が強いことで他のスキー場に比べて強風でリフトが止まるということが多い
そのため自分が入った前年から気象観測機を設置して、ネット上で気象情報が見れるように整備されていた(一般には公開していない。このシステムを整えてくださったLogicalWorksさんには感謝しかない)

手始めにこの気象観測機データを使うことでどういう気象条件下で雪崩が発生しているのか探ってみることにした。
この観測機というのが本当に優れていて、例えば過去データを何日の何時間の部分を表示してくれと指示を出せば詳細に
「風速、風向、気温」を辿ることが出来た。

そうして、雪崩管理に入り雪崩が発生した日は観測機のデータを遡り気象条件を書き記していった
そうすることである程度のデータが集まるとある一定の法則性があるということが見出すことができた

ある風速帯の中で雪崩が発生している

次の雪崩管理に入った時にその風速帯の中で風速が推移しており、これは雪崩が発生しそうだな…
と雪崩管理に入ったら見事に雪崩が発生した

これはいいぞ!と意気揚々と次の雪崩管理に臨むと
またあの風速帯に近い形で風速が推移しており、これは今回も雪崩が出るぞ!と期待して雪崩管理に入ったら

雪崩が出ない

出ると思った雪崩が出なかった時は本当に落胆した
と同時に予測が外れたことで何で雪崩は出なかったんだろう?と考え検証を繰り返した。
雪崩が出た時に比べて風が強かったのか?降雪量が違ったせいか?気温の違いは?雪質(乾いているか、湿気っているか)?雪温(雪の温度)?
そしてまた新たな仮説を立てて検証を繰り返す

明確な違いが現れたFWTの雪崩管理

仮説、検証を繰り返した先に自分の中で予測の精度がかなり向上してきた事を実感していた。
雪崩が発生するある一定の法則性というものの幅がだいぶ絞られてきたと言うとわかりやすいかもしれない

この頃にはある雪質と風速で雪崩は発生するという予測が立てられるまでに進化をしていた(まだ声は聞こえていない)

そんな折に訪れたのがFreeride World Tour (以下FWT)白馬大会での雪崩管理

詳細はFWT HAKUBA に賭けた想いに綴っている

雪崩管理の前日に山小屋に泊まり込み、夜明け前から行動を開始して雪崩管理に入る手筈となった。
夕方に八方池山荘に入ってから段々と風が強まり、次第に小屋が揺れるほどの吹雪となった。

これは明日の雪崩管理では雪崩は発生しないだろうな…風が強すぎると考え眠りについた。

強風で山小屋が揺れる音に起こされることもあったが、4時に起床して行動を開始した。

雪崩管理のタイムリミットはスキー場のリフトが稼働して、登山者が山に入るまで。それまでに全てを終わらせなければならなかった。

行動を開始する前に気象観測機を確認すると夜中のうちに30mの爆風が数時間吹いており、風が強すぎるため今日は雪崩は発生しないだろうと予測をした。

雪崩管理をする斜面の上に着き、雪崩管理を開始することとなった。この頃には風は弱まっていた。
決められた手順で爆薬に点火をして相方がストップウォッチを押す
点火を確認したら、退避をする(これが爆薬の一連の流れ)

点火をしてから2分30秒後に爆薬が爆音と共に炸裂する。
乾いた爆発音が黎明の山に響き渡る

雪崩は発生しない、雪面に穴が空いただけだった。

2、3発目と爆薬が炸裂する、雪崩は発生しない。
そりゃ出るわけないよな、夜中に吹いた風が強すぎたのだからと思った。

ミックス(雪崩管理している斜面の名称)は北に向かって伸びる尾根を下っていくことでいくつかの沢が現れる、沢に入り滑り降りことで全ての沢が下流で合流している。沢ごとに雪崩の発生区を潰していかないとミックス全体の安全を確保することは出来ず、沢を全て潰していく必要があった。

4発目の爆薬を設置するために北に伸びる尾根を進み標高を下げて次の沢を目指す
4発目の爆薬を設置して退避する、沢を回り込み、正面から沢の見えるポールポジションに構えて爆発の時を待つ

相方が「爆発まで30秒前」と合図の無線を周りに入れる
私は耳を親指でぐっと閉じて爆薬を見つめる…

爆薬が炸裂した瞬間に呆気に取られた

出るはずないと思った雪崩が発生したからだ…

雪崩を見た瞬間に頭のスイッチが入り、フル回転し出すのがわかった。

「なぜ?雪崩が発生した?」
少しの思考の後に自分の頭が導き出した答えは
標高が下がったことでこの斜面に対する風速が弱まったせいだ…ということ

そこからは完全に頭を切り替えて5発目の爆薬設置へと向かう、5発目も雪崩が発生した。

6、7発目は出ず、「なぜ?」を繰り返す。

8発目を設置しに向かうと何とそこでは自然発生で既に雪崩が発生していた。
爆薬を持ち帰るには行かないため、空撃ちで爆薬を消費してFWTの雪崩管理は終了した。

 

 

 

 

ミックスでの雪崩管理の結果青線が爆薬で発生した雪崩、緑が自然発生雪崩

反省の一つとして明け方の暗いうちに行動を開始していたため対面から自然発生の雪崩痕を雪崩管理に入る前に気づく事が出来なかった。

翌日に雪崩が発生した場所、発生しなかった場所、自然発生の場所、全てでスノープロファイル(どういう積雪構造になっていたのか調べること)を取り雪質を記録した。
堆積した雪の雪質、粒径の違いから風速により、雪の砕かれ方の違いがあり、それがどのような結果に結びつくのかというのが見えてきた。

一番の学びは標高が下がれば風速が弱まるということ

山全体を見ればある箇所では風が強かったとしても雪崩が発生しうる風速帯がどこかの標高帯で当てはまり、その標高帯では雪崩が発生するという事が見えてきた。

雪崩の声を聞く

風が強かったとしても雪崩が発生しうる風速帯に当たる標高があるという事が分かってからというもの、雪崩への理解は急激に進んでいった。
その頃には朝起きて降雪情報と八方に設置された気象観測機のデータを見ればその日に発生しうる雪崩の予測を高精度で行えるようになっていた。

そして雪崩の声を聞くという衝撃的な出来事が起こったのです。

ある日雪崩管理に入るために早出をした時のこと、この日はいつもより風が強く雪崩が発生しうる風速帯には当てはまっておらず。
雪崩管理を行うかメンバーに相談したところ
とりあえず、確認だけ行ってみようという話になった。

雪崩管理に入る前に雪を触った時にスラブ化(雪崩やすい雪の状態、しまり雪)は見られず雪崩る気はしなかった。
いつも降雪があれば必ず雪崩れるポイントに雪崩管理に入ったが雪崩の発生は見られなかった

チーム内に「今日は管理に入っても雪崩は出ないだろう」という空気感が漂い始める
一度管理に入っていた4人で合流して、雪崩が出ないなら雪崩管理を止めるか続行するかの話になったが最後にもう一つのポイントを確認しておこうという話になった。

一番最初に次のポイントへ到着した自分は足裏から伝わってくる雪質の変化を感じた。
これは雪崩れる雪質だと確信した。

後から合流してきた3人に「この先絶対に雪崩れるから油断するな」と伝えた。
上部でも結果が無かったため安堵していた3人はキツネに摘まれた表情をしていた。
えっ?雪崩出るか…?みたいな表情だった(笑)

いや〜な予感がしていた自分はバックアップに回り、3人にスキーカット(滑ることで雪崩を発生させて処理をする)をさせるために指示を出した。
1〜2人目が高めラインに入り、3人目が雪崩を仕留めにいく作戦
3人目がスキーカットに入ろうとした時に自分が思い描いたラインより下に入り、嫌な予感がしたので静止して「そのラインだと下がりすぎて雪崩が発生した時に呑まれる可能性があるから自分が切る」と伝え、自分がスキーカットに入り

ここだ!

という場所でジャンプカット(滑りながらジャンプして強い衝撃を与える)をしたら
足元から雪が崩れ落ちて雪崩が発生した。

「だから雪崩出るって言ったじゃん!」と言って3人の顔を見ると
キツネに摘まれた顔をしていた(今でも忘れられない笑)

雪崩が出ないと思っていたのに出たらそうなるわな

と考えたと同時に頭をぶん殴られたような衝撃が走り唐突に理解をした。
あぁ…これが雪崩の声を聞くという事か………と

その日の業務を終えたら師である若林先生の元へと急いだ
「先生雪崩の声が聞こえました!今日雪崩れるって分かったんです!雪崩が語りかけてきたんです!」

大興奮で捲し立てる私を見て先生はニタリと笑い

「そうか、そうか、雪崩の声が聞こえたか!」と喜んでくれた

人ならざるものと対話するという事、自然の声を聞くということ

人ではないものと対話すると言うと何だか人が会話する言語を用いて
植物に語りかけると植物も同じ言語を用いて返事をしてくると思っていたが、そういう事ではない

私が伝えたい自然と対話するということは

仮説、検証を行い、予測を立てそれを繰り返し、突き詰めていくことで

予測の通りに事が運んだ時、自分がイメージした通りになった時に

あたかも自然が語りかけて答えを教えてくれたように錯覚する(感じる)ということ

それこそが人ならざるものと対話する、自然や植物たちの声を聞くこと何だと理解しました。

最後に

最後に伝えたいのはこの能力では万能ではないということ

自然環境は変わりゆき
人は歳をとり、感覚は変化してゆく

自然環境や、自分に合わせてキャリブレーション(調整)を行なっていかなければならない

自然災害が増えている昨今、自然とは厳しいという印象を抱く人が多いと思う。
「自然は時に厳しく、自然は物凄く優しい」と私は思っている
自然は厳しくも優しいからこそ、雪崩れる時には雪崩れるぞ〜というメッセージを必ず発してくれている
そのメッセージに気づけるか気づけないかは受け取る人次第だと思います。

私が今後、雪崩で死ぬことがあるとしたら自然からのメッセージを読み誤った時なんだろうと思う

人ならざるものと対話する者たち#3” に対して1件のコメントがあります。

  1. Ikuko Nitta より:

    森山さんのエピソード、私が翻訳した論文の元になったものですよね?!森山さんの絶えざる現場での仮説と検証があって初めて雪崩の声を聞くことができたんですね!感動しました。

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