22年12月20日に発生した地吹雪雪崩

大規模な地吹雪雪崩

21日晴れ渡る青空に山を見たら出てるわ出てるわでっかい雪崩の破断面が…無数に

代表的なところでは白馬岳山頂から小蓮華側に少し下った南東面にでっかい破断面
崩沢にもでかい破断面が!(写真は47mitsuyasuさんに提供して頂きました)

サイズ2.5~3.5までの雪崩の数々に雪崩探求者として心が躍りました。

雪崩を紐解く

大規模な雪崩が発生したのは20日推定時刻は12時前後
16日からのHSTは20日の朝で86cm(標高1400m)

観測機のデータlgicalworksさん
16日から極端に雪が再配分されるような大風は吹いていない

地吹雪雪崩

観測機データlogicalworks

20日の朝は風強くアルペンクワッドの営業を見合わせていた。
夜中の3時から西の風が強まり、朝ゴンドラを降りてアルペンクワッドの降り場標高1680m以上では地吹雪が吹き荒れており、山は厚い雲に覆われていた。

日射計がないので数値として表せないが、8時の定点観測の時点での雲量は4-5SCTであった。
夕方15時の定点観測での雲量は同じく4-5SCT、この時雲に覆われていた稜線は白馬乗鞍岳まで見え始めていた。
稜線に関しては定かではないが、八方周辺では雲に覆われる時もあったが1日を通して日射がさしていた。

ポイントは風速と日射

アルペンクワッドが運行を開始したのは12:15、この前に雪崩管理にパトロールが上がったらハイクアップで上がったスノーボーダーが黒菱の管理ポイントで偶発的にサイズ1未満の地吹雪雪崩を誘発していた。
その後、山に上がっていたガイドさん達がグラートを下ってくる時にも偶発的(故意に?)にサイズ1の地吹雪雪崩を発生させていた(21日朝に確認)

二つの雪崩の共通点は東向きの斜面
地吹雪が起こることで雪は効率的に砕かれる、細かく砕かれた雪は爆発的に焼結(球形化)のスピードが上がる
そこに日射が射すことで細かく砕かれた雪に熱が加えられ焼結のスピードに拍車をかける

風は一定の強さで吹いているのではなく、息をする
強い時もあれば、弱まる瞬間もある
弱まった瞬間に運ばれた雪(再配分)は効率的に砕かれないため
分かりやすく言えば粒子が大きいまま風下斜面に運ばれる(細かい雪より焼結が遅い)
その上に強い風で運ばれた雪(焼結が早い)が堆積する

これが繰り返される事で風下斜面に層が形成され、粒径が違うために焼結のスピードに差が生まれ、層の中に強度の違いが生まれる。

これが地吹雪雪崩のメカニズム
一般論で語られることはない、地吹雪雪崩とは若林先生と原田さんが数年前に生み出した新しい論だ。
私はこの論に則ってここ数年現場で検証を重ねてきた。

20日に山で発生した地吹雪雪崩

21日に麓や情報から発生した地吹雪雪崩をまとめると写真のようになる
赤点が発生区、黄色い線が大体の破断面とデブリ(予測も含む)
Googleアース「12月20日地吹雪雪崩」

八方を中心に観測した中で5つの雪崩が発生している(山のみ、スキー場内はカウントしていない)
発生区の類似点を探ると白岳を除いて、斜面方位が南東面に当たっている
ここから推測できるのは日射を受けていた斜面であること
もう一つは地吹雪が発生していたであろうということ

崩沢破断面観測

冒頭で紹介した崩沢の破断面観測に行ってきたので今日はそれを紹介して締めたいと思う
崩沢の破断面(シワが1個1個の層になっている、風の強弱によって層が形成されている、このシワが地吹雪によって形成された層の特徴)

雪崩が発生した後に地吹雪が続いて破断面が埋まっていたので厚みは断言できないがコンプレッションテストの結果と周囲の状況から80cm前後と見ている。
80cm〜117cmの4Fの層が風が弱まったタイミング形成された層(上下の層に比べて雪の粒径が大きい)
弱層というより、地吹雪の層の中で相対的に弱い部分で破断したと捉えた方が分かりやすいかもしれない。(層は多段で破壊されるため弱層と言ってしまうなら無数に存在する)

地吹雪は風速と雪面状態に依存する

今回発生した地吹雪雪崩をもう少し解説すると
地吹雪雪崩の発生条件は削剥面(風上の風が当たる場所)の雪質により必要な風速が変化してくるということ

湿った雪より、乾いた雪の方が弱い風で運ばれるのは容易に想像できる
問題は削剥面の雪質、削剥面に氷盤や硬い雪が形成されている方が弱い風でも効率的に雪が運ばれ砕かれる(風で運ばれてぶつかる雪が硬いから)

削剥面の雪が新雪など柔らかい雪質であった場合、雪を効率的に運ぶにはより強い風が必要になる(雪が柔らかいため風で運ばれ雪面に雪が当たっても砕かれにくい)

まとめると
現在標高1700m以上では削剥面に氷盤は形成されていない
地吹雪雪崩を発生させるにはより強い風が必要となってくる。

風速が強すぎると地吹雪が高くなり、昇華してしまうため雪崩は生まれない
雪崩を産むには丁度いい風速というものがある。(雪質に左右される)

以上のことを頭に入れてGoogleアースのポイントを見直して貰いたい
今回はほぼ真西から風が入っている(1700m観測機のデータから)
八方尾根の雪崩発生のポイントを見ていると斜面に対して真上からの風(トップローディング)ではなく横風(クロスローディング)で入っていて(地吹雪雪崩には横風が重要)
発生したポイント毎に地吹雪雪崩を産む丁度良い風(風速)が吹いていたんだと思う。

他のポイントでも同じ事が言えるんじゃないかと思う

データが無いので多くは言えないが、今後この事を解明していくには稜線上にも観測機が必要になってくると思う。
データと雪崩の結果を照らし合わせて検証していくことはとても重要な事だ。

今後の予測

21日の夜中から再び降雪もしくは雨予報が出ている。
雨自体は積雪に影響及ぼすほどの雨量では無いのでは白馬周辺では問題ないと思うが
注意して見たいのはフリージングレベルが1500mの予報が出ているため
山のどの標高帯まで雨や湿った雪が入るか?ということ

高標高帯まで湿った雪が降った場合、薄くとも氷板が形成される可能性がある。
氷板が形成されれば、滑り面にもなり得るし、削剥面に形成された場合
20日に吹いたようなリフトが運休になるような風が吹かなくても雪は効率的に運ばれ、砕かれるようになる。

何が言いたいかと言うと、人が行動できる風速でも雪崩が発生する確率が上がりますよというお話

昨シーズンは低温がずーーっと続いたため、氷盤は形成されなかった。
地吹雪雪崩を産むには強い風(リフトが止まるような)風速が必要だった。

去年のようには行かないから過ぎたことは忘れて、風速に対するキャリブレーションをしておいた方が良いですよと言う事を伝えたくてダラダラと書いてきました。

だからシーズンが始まる前から今年は雪崩が多いですよ〜と色んなところで言っている

シックスセンスで今年は雪崩が多いだろうと予測しているのではなく、適当に言っているわけでもない
去年と違いシーズン初めから寒暖差が生まれているからシーズン中に氷盤が形成されて雪崩が多くなるだろうな〜と予測しているわけです。

若林先生はよく「自然は合理的にできている」と教えてくれました。

グッドニュースが一つあるとすれば白馬エリアは今年は全層雪崩には苦しまないで済みそうだな〜と思います。

妙高エリアは今日現在の積雪が少ないため、明日の降雨量次第では
グライドクラックの発生、今後の全層雪崩の対策が大変になるかなと感じました。

全国のパトロールの皆さん、怪我なく無事にシーズン乗り切りましょう

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