槍ヶ岳山荘小屋開け作業

例年この時期になると行っているのが槍ヶ岳山荘の小屋開け作業
確か今年で8年目になると記憶している
毎年この時期の恒例行事で自分の中ではお祭りみたいな毎年欠かせないものとなっている

その年その年の答え合わせ

槍の小屋開けで一番楽しみにしているのが、3,000mの積雪データが取れるという事
雪に埋もれた小屋を投雪機や手彫りで掘り進めて小屋を出していくのが私の仕事で
3000mに降り積もった雪を掘りさげる事でシーズンを通して降り積もった雪を観察する事ができる


*写真は昨シーズンのもの

今年は雪が少ない

入山前情報で聞いてはいたが、今年は雪が極端に少ない
自分が見てきた8年間の中で一番雪が少なく
50年選手の大ベテランが今までで一番雪が少ないというほど雪がないのである
4月の高温、雨で一気に溶けてしまったというのも一つの要因ではあると思うが
そもそも北アルプスの南部地域では雪が降っていないのだと思う


入山初日、ものの1時間で正面玄関が開いたのは初めての経験


雪が多い時は2階の窓の半分まで雪が積もっている年もあった(写真は2シーズン前)
そう考えるといかに雪が少ないかが分かって頂けるはずだ。

入山前の予測

入山前にある予測を持って槍の小屋開けに入山していた。
11月後半にドカ雪が降り、12月の頭に一度雨が降ったので
標高が高い所では積雪層の下層に氷板が形成されているか否か
今年は低温が続き、3月中旬まで雨が降らなかったので積雪の中間や上層には氷板は無いだろうと予測をして入山しました。

氷板は下層に形成されていたが(12月の初めの雨で形成されたものだと思う)
場所によっては薄かったり、消滅しているところもあり明確にあるとは言い切れないものであった。
積雪層の中に明確な氷板がないために積雪下層の雪は脆く、地表面に近い所は粒径の大きい濡れざらめ(wet)が20cm程あり、その上は粒径の小さな濡れざらめ(moist)が1m程層となり、そのすぐ上に氷板らしきものがあるくらいで雪面近くまでは乾きザラメが形成され、雪面には4月7日の降雪で形成されたと思われるクラスト面が形成されるという積雪構造になっている。


この積雪を支えているのは上のクラストと乾きザラメ(硬さはさほどない)下層の氷板らしきものだけだと思うと脆いなと思う。

例年であれば小屋の玄関を出すまでに氷板が1つや2つ出てきてもおかしくないのだが、今年は3000mの稜線で明確な氷板を見言い出す事は出来なかった。

氷板が形成されなかった理由は3月28日に書いたブログに考察を書いている↓

https://forestmountain.blog/640/

積雪層内に氷板がない事で、下層に行けばいくほど雪は脆く、
至る所で投雪機がハマったり、踏み抜いたり、今年は本当に除雪に苦労している
雪が柔らかいので作業が進むのは早いが神経はかなり使う、何せ何もない稜線上での除雪作業なので
リカバリーが出来ないほど機械がハマったり、落とすなんてことがあってはならないので…

今後の懸念

積雪層が脆い事で今後の懸念としてはが一番の懸念材料になってくる
今の積雪構造を見るに雨が降り(雨量にもよる)日射が射せば全層雪崩がいつ発生してもおかしくないのでは?と考えている。
19日に入山してから弓折岳、抜戸岳周辺ではグライドクラック、全層雪崩が発生している(18日弓折岳周辺では雨だったのだろうか?)

高標高帯は急峻な斜面も多く、全層雪崩が発生するとは考えたくないが
グライドクラックなど前兆が見て取れるのであれば警戒するに越したことはなさそうだ…

GWの山行のアドバイスとして

雪崩の危険性もそうだが、雪が緩んで踏み抜きなどを考えるとGWの山登りは早い時間(雪が締まっている)に行動する事が良さそうだ(早出早着、今更私が言うことでもないが…)

日射を受け気温上昇をすると雪崩の危険が高まる
ツボ足であれば緩んだ雪に足を取られ前に進むことが困難になるだろうと予測する

雨予報があれば山には絶対に入らない、行動しない
身を守るためにはこれは絶対条件になりそうだ。

雪の多い北アルプス北部

そうかと思えば、雪が多かったり、例年通りの積雪だとの情報が入ってくる北アルプスの北部

毎年行っている仕事の一つに富山県宇奈月のトロッコ沿線の石落としの仕事がある

槍の入山前に1日お呼ばれして行ってきたのだが、トロッコ列車最奥部の欅平は雪が多く
例年の日程通り作業を進める事が出来ず、遅れが生じている

この事から考えうるのは下ノ廊下は今シーズン開通するのだろうか?という事
現時点で北部は雪が多い上に、3月14日以降に標高2000mより下で全層雪崩が頻発した事を考えると黒部の谷は例年にないくらい雪で埋め尽くされているのではないだろうか…?
(例年、お盆過ぎに下ノ廊下の登山道整備に私も入っている)

事実、阿曽原温泉小屋のIさんは今年は雪が多く、下ノ廊下は開通しないかもしれないと嘆かれていた…

予測をしたら答え合わせを

ウインターシーズンはあっという間に終わってしまう
スキー場がオープンしたと思ったら、講習会や大会が始まり
春めいてきたなぁ〜と思ったら、もう槍の小屋開けに入山している。
その年々のデータを蓄積していくという事はとても重要で,私にとっては槍の小屋開けは
そのシーズンにどんな雪が降り積もったのか確かめる答え合わせの作業で
8月のお盆すぎに下ノ廊下に入ることで、そのシーズンの積雪量に合わせてどの程度、どのような雪崩が発生したのか確認をして、稜線と谷底の様子を記録するようにしている。

予測を立てるだけではなく、自分の中での答え合わせというのはとても重要だと私は思う
特に自分より経験がある人や先輩の言った言葉を鵜呑みにしてはいけない
例えば、あの人が例年より雪が多いと言ってるので見も考えもせずに多いのだろうなという判断や解釈をしてはいけない

自分の目で見て、考え、自然から答え合わせをするという事はとても大切だ
自分の感覚だけでの経験を積み重ねるだけではなく、データの蓄積は気候変動の激しい近年では重要な要素になってくる。

*今回の積雪構造や予測は槍周辺を想定したものになっている、山域が違えば結果も当然違うだろう。
下ノ廊下にしても入って見ない事にはわからない、この後の天候次第では雪は溶ける可能性だって十分にあり
得るのだから

この情報を鵜呑みにし過ぎず1予測として聞いて山行に役立てて頂きたい

100年に一度の台風だとか、100年に一度の大雨だとか
気候変動だとか、小雪など自然は私たちの世代に無理難題を突きつけてくるのか…
人間に付けがまわって来ているのか、はたまた私たちの世代には乗り越えられるという意味の難題なのだろうか

 

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