雪崩を紐解く
白馬鑓ヶ岳での雪崩
恵みの雪に村内でも各スキー場が開き始めています。
平地に雪が積もり、樹木が雪に覆われてしみじみと思うのは冬は雪が似合うな〜ということ
前回のブログでは
12月に発生した全層雪崩やグライドクラック、土砂災害について触れました。
こういう異常現象や異常気候も以上終了(穏やかな変化になる)となってほしいものです。
12月24日に白馬鑓ヶ岳で発生した雪崩
雪崩跡を探すのが趣味な私としては1ストームが開ける時に山を見渡すのが楽しみで、大きな雪崩跡を見つけると興奮します。
雪崩跡を見つけるとあの雪崩は何故発生したんだ?と考えるのが好きで
最近はいくつかの論が定まってきたのでその論に当てはまるものなのか?の検証作業は答え合わせをしているようでワクワクします。
自称「雪崩探究者」と言っているのも理解してもらえますかね?
雪崩を紐解く
今日はどのように雪崩を紐解いていっているか書いていきたいと思います。
雪崩跡、もしくは雪崩管理を行った後に発生した雪崩がどういう気象条件のもと発達していったのか探っていきます。
今回の白馬鑓の雪崩で言えば、上部では明確な破断面が2つ見えていて、上の地吹雪雪崩の破断面では滑り面は白く、下の破断面の滑り面はざらめ雪のような灰色の雪が露出していること、融解凍結クラストに見える。(ざらめや誘拐凍結クラストは灰色に見える)
下部の持続型スラブ破断面が広がっているように見えて、双眼鏡で見た感じでは誘拐凍結クラストというより
ざらめ雪に近いような感じに見えたけど、定かではない。(現場で見たい、誰か私をヘリで連れてってください)
(写真は上の写真と同じで加工して、滑り面の雪を見えやすくしている)
ここで分かるのはこの雪崩は多段式であり。
上の破断面と下の破断面では弱層が異なるということ(理由は雪の色の違いから)
肉眼では見えてこないことも、写真を撮ってズームしてみたり、加工することで見えてくるものがある
双眼鏡というのも手放すことができないアイテムの一つだ
気象を紐解く
気象データ(logical worksの気象データより)
23日の昼過ぎから風が強まり、八方尾根スキー場では午後の管理で地吹雪雪崩が発生している。
夜中に向けて、風は弱まっているが、明け方に向けて再び風は強まり始めていることと、気温が昼に向けて上昇していっていることがみて取れる。
雪崩発生は定かではないが、破断面や滑り面の露出の感じから、雪崩発生は日が昇ってから10時までに発生しているように思う。10時の時点で破断面が確認されているため
稜線の風速はわからないが、上部の破断面を見る限り、発生源は地吹雪雪崩と考えて良いように思う。
面白いのは稜線付近で発生した雪崩が大出原まで到達して別の雪崩を誘発しているということ
上部の雪崩は地吹雪雪崩と考えれば20日から始まった降雪が再配分されて起こっていると考えられる
↑は白馬乗鞍に設置されている気象観測機2400m(防災科学研究所)
八方池気象観測機2081m(防災科学研究所)
上記2枚の写真は12/15~25日までの最大風速と気温をグラフにしたもの
雪崩発生は白馬鑓ヶ岳南面で位置的には二つの観測機の間くらいと考えて良いのと発生区の標高は2850m付近になる
そのため発生区の気温はより低く、風は強かったと考えるべきである。
15日に暖気が流入して山でも雨を観測している、この時の凍結高度は3100m
気象観測機の気温データを見ても白馬の稜線上では雨が降っていたことが考えられ、その後寒気が入り、一気に気温が下がっている(稜線では-20度くらいまで下がっていた?)温度勾配が激しく雨の層とその上の新雪層の境界面には下ざらめなどの発達が考えられる。
ここで合点がいくのが一番最初の写真の滑り面の写真が灰色でざらめ系もしくは誘拐凍結クラストに見えるということ、天気予報と観測機の情報、定点観測のデータを照らし合わせることで山の上の状況が見えてきた。
雪崩が雪崩を引き起こす
近年、個人的に考えているのは持続型スラブなどの深い位置に弱層が位置するものは人の衝撃だけで誘発することは困難だということ
というのも21年に崩沢でサイズ4の雪崩が発生した時と
昨シーズンの裏天狗での事故が発生した直後にスキー場内でも同弱層があったため、大きめの爆薬(kg数は控える)を使用して雪崩を引き起こしにいったが雪崩を発生させることは出来なかった。
そこで見えてきたのが弱層が明確にあったとしても爆薬を使用しても落とすことが出来ないこと(海外スケールの10kgを使用すれば落とせるのかもしれないが、日本のスキー場内でその規模の爆薬を使用するのは倫理的に不可能である)
過去に持続型スラブが発生した時の気象データを見ていると地吹雪雪崩が発生する風速帯に山があった事が分かってきた。
持続型スラブが発生した時の現場の証言からもステップダウンの雪崩であったという証言が出てきている
私の今の仮説では
持続型スラブを誘発するためには別の雪崩による力が必要だと考えています。
広範囲に一気に圧をかける必要がある。
これはあくまでも個人的な仮説です。
ただ現場で検証して見てきて辿り着いたことでもあります。
何に気をつければいいか
持続型スラブが形成されるコンディションになった時に注意するのは
地吹雪雪崩の発生、地吹雪雪崩が発生するようなコンディション
地を這うような低い地吹雪が出てる時に山に入らなければいいと私は考えている
参考までに21年の崩沢で地吹雪雪崩が発生した時に発生していた地吹雪の映像を載せてきます。
こういう風が吹いている時は要注意です。
地吹雪自体が低いので行動は出来てしまう、リフトも動いてしまう。
=山に入れてしまう
まとめ
これを書いている26日の7時現在
標高が高いところでの雪崩発生の報告が相次いでいる
標高の高いところの方が15日以降温度勾配が激しかったため誘拐凍結クラストがバッチリ形成されている可能性がある。
持続型スラブが全山で解消されているとも考えにくい
少なくとも白馬鑓ヶ岳のこの南東面では雪崩たことによって解消されている可能性があるが、まだ発生していない面もあるように思う
こういった事を解明していくためにも雪崩発生があればヘリで現場に入れるシステムが確立出来ないかなと考えています。
歩いて行っても良いですが、こういうコンディションの時に谷に入りたくないし、雪崩発生を知ってから稜線に行くにはあまりにも時間がかかりすぎること、次の日に入ったのでは雪質が変化してしまうため遅いことが問題点だなと考えています。
次世代へ
ここでは雪崩を解明していく時の自分のやり方を書かせて頂きました。
雪崩を紐解いていくやり方は人それぞれですが
私は感性→科学的データでの裏付けという順番で紐解いていくやり方を八方にきて見出しました。
感覚は頼りになりますが、日によってブレがあるため自分の感覚であっても日々調整しないと裏切られます。
では観測機のデータは絶対であるか?と言われるとそうでもないと私は考えています。
観測機が正しいと思えるのは正しく機器が設置されているのが前提で、なおかつその場の情報でしかないという点です。
その情報を自分が見たい標高帯や斜面に置き換えた時にどのような結果に変わるのかは常に考えなくてはならない問題です。
雪崩を紐解いていくのは楽しくもやりがいを感じます。
ただ、気象現象の変化のスピードを考えると恐ろしさを覚えます。
いつか自分がその変化に追いつけなくなるのではないか?
この変化の激しい時代に生まれ育ってきた、新しい感覚を持つ若手が出てくることを願って。