日本中をまわって抱いた危機感、雪崩事故は起こる

雪崩事故は起こる

仰々しいタイトルですが、結論から先に書きます。

数年以内にスキー場のコース内で雪崩による死亡事故が発生すると思います。

こんな事は書きたくないですが、日本中をまわって危機感を抱き書くことにしました。

シーズンの振り返り

22-23シーズンが終了しましたね。
今シーズンは小雪に泣き、1月に大雨が降るという異常なシーズンとなりました、単純に雪が少ないシーズンだったとは一言では言い表すことが出来ず、今年で10年目となる槍ヶ岳山荘の小屋開けではここ数年で一番多い積雪(小屋周り)を記録していました。

里で雨が降った時も山では雪が多かった事と、4月に入ってから稜線では雪が降っていたんだろうと推測します。

今シーズンは例年と変わらず八方尾根スキー場のパトロール隊に所属しながらも、雪崩サーチ&レスキュー基礎講習会で全国をまわり、スキー場のコース内で発生した雪崩調査に呼ばれたり、北の大地に行き、同年代のパトロール隊の方にお会いしたり、ニセコ雪崩調査所の新谷さんにお会いしたりで忙しく全国を飛び回っていました。

八方のスキー場内での雪崩発生は少ないシーズンでしたが、インバウンドが8割強戻り始める中で
山に入る人数が多くなったことからも山岳遭難や雪崩事故は増えているなと印象を受けました。

シーズンを通して1番印象的だった出来事はやはり、1月に大雨が降ったことですね。
大雨が降ったことで1月に全国的に全層雪崩が発生するという異例な年になったことはとても衝撃的でした。
1月に全層雪崩って‥

昨シーズンは3月まで低温が続いたところに雨が降り一気に雪が変態して全層雪崩が起こるという異例なシーズンでしたが
今年は雪が降らず、積雪が少ないところに雨が降って全層雪崩が出ると2年連続で違うタイプの全層雪崩に悩まされた年となりました。

昨年の全層雪崩について書いた記事は以下から👇

各地で猛威を振るったグライドクラック、全層雪崩への考察

全層雪崩の発生を予測できたか

2年連続で全層雪崩が猛威を奮って各地から聞こえてくるのは
スキー場内で全層雪崩が発生した。とか(営業時間外含む)
営業中にコース内で全層雪崩が発生した。とか

私が今シーズン見た限りでは本州ではほぼ全ての地域で全層雪崩が発生していたように思います。(スキー場内外関係なく)

大雨のあとに全層雪崩が発生するって予測出来ていましたか?

予測出来ていなかったのであれば自分の考え方や安全管理のやり方を悔い改めましょう。

スキー場内の安全管理で背負っているのはあなたのプライドではなく、お客様の命です。
(これは私自身にも言い聞かせています)

八方でも全層雪崩は発生しました、幸い2年連続で雪崩発生を予測することが出来たので
発生箇所のコースを閉鎖することで被害を食い止めることが出来ています。(昨シーズンは土曜日のお客さんが大勢来場されている日の12時に発生して肝が冷えました、コースを閉鎖していなかったら…)

運か?と言われればそうかもしれませんし、私の中では予測出来ていたとも言い切ることが出来ます。

何を見ていたかと聞かれれば雪の変化を見ていました。
雪崩は発生するタイミングというのがあって、ある日突然前触れもなく雪崩るわけではなく、予兆というのは必ずあります。

雪崩が発生するタイミングを知る

その事は別の記事で書いているので読んでみてください。

何で雪崩が発生するタイミングがあるかなどを言えるのかと言うと、その日にどんな雪崩が発生するのか予測出来ないのであれば
雪崩管理をすることが出来ないからです。

適当に雪崩管理をやっている訳ではなく、その日に発生する雪崩を予測して
プランを立てて、管理するポイントを変えたり、爆薬の使用量を調整したりするわけです。

発生する雪崩はある程度予測することが出来ます。
上記でも書いたように予測できないのであれば安全管理のシステムに問題があると思います。

なぜ事故は起こるのか

冒頭で数年以内にスキー場内で雪崩による死亡事故が発生すると書きました。

一つ一つ理由を書いていきたいと思います。

①気候変動、気象の極端化が激しくなっている

これは多くの人が感じている事だと思います。
シーズンを通して寒かったり、小雪だったり、普段降らない地域で雪が降ったり、1月に雨が降ったり、1度に大量降雪があったり、地域やシーズンによって違いはありますが、多くの人が感じている事だと思います。

②経験則があてにならなくなってきている
①に付随して、気象が変化して、雪の降り方が変わってきているため
過去に雪崩が発生した事のない斜面や時期に雪崩が発生している。
八方に移動した時にこの斜面でこの時期に雪崩が発生したのは初めて見たと30年選手のパトロールの大先輩に言われたことが何度かあります。それだけこの10数年で気象が変化してきているため、経験則はあてにならなくなってきているなというのが現場で感じていることです。

どことは言いませんが、長年雪崩管理が行われているスキー場であっても営業時間中に全層雪崩が発生したりするわけです。
経験則が通用しなくなっているという事は現場にいる私たち一人一人が認識しなければならない事実ではないでしょうか

この事が事故が起こる一番の要因ではありますが、事故が起こり得る問題は別のところにあると私は考えています。

③担い手の不足
今シーズン全国をまわって感じたことはどのスキー場も担い手不足に喘いでいるということ(私がいる八方も例外ではない)
季節労働のスキーパトロールは担い手が不足していくことは明白なので致し方ないとは思いますが、安全管理の観点で言えば、経験則が役に立たなくなってきたとは言え、経験が必要だということに変わりはありません。

気象変化が激しく、激動の時代に突入していく中で、個人やチームとしての経験値が継承できないということは死活問題です。

①〜③で事故が起こりうる要因をあげてきました。
まとめると気候変動、気象の極端化が激しく、今まで経験した事のない気象条件が降りかかってきているため経験則が通用しなくなってきているところに輪をかけて、担い手が不足して、チームとしての知が継承されていない

そして、次に書くことが事故が起こりうる最大の問題だと私は考えています。

④感覚だけで通用する時代は終わった
(ここからは諸先輩方々に厳しいことを書きます。これは批判ではなく、否定です。)

経験則が通用しにくくなってきた現代で感覚だけ(ここで言う感覚は見て学べとか空気を読め的なことです)
で自然を相手にするのはとても危ういなと私は思います。

何故なら人それぞれ感覚は違うため、感覚だけでの伝達や継承はできないと私は考えています。
人が大勢居て、気候の変化が激しくない(ある程度一定であった)時代は経験則が一番役に立つので、年数を重ねることで体験が経験値となり、シーズン毎の大きな変化が無ければ経験をそのまま活かすことができるので、感覚を研ぎ澄ましていけばそれで良かったのかもしれません。

それがいつしか、スキーの板が進化して、ユーザーが求めるものが変化して、テクノロジーが進化をしてきました。

私は今日現在35歳で、小学生の頃に親が携帯電話を手にした事を覚えており、クソ遅いインターネット(ISDN笑)で検索をした事も覚えています。それが今やスマートフォンがあって、手のひらで世界中どこでもインターネットに接続して、知りたいものを調べて、買いたい物を買える時代になりました。

便利になりましたが、単一化してしまったんですね…
私を含めて今の若者は残念ながら感覚が乏しい(自分が若いという意味ではない笑)

だからバリバリ感覚だけでやってきた先輩方の技術を拾い上げる事はできないし、私たちには継承できないのです。
運良く継承できたとしても、感覚だけではいつかは途切れてしまうでしょう。

そういう風に物事を捉えて、考えるように私たちや下の世代は教育されていません。

だからこそ、感覚だけではなく、データが重要になってくると私は思います。
日々普段の雪崩管理の気象データを記録して、まとめていますか?

テクノロジーが進化していくなかで、そんなものは必要ない

捉えどころのない自然を相手にしているのだから、データなんてものは必要ない
感覚だけを磨いていけばいいんだ!

と自分が学んだり、変化する事がめんどくさくて、跳ね除けたりしてきませんでしたか?

今その時のツケが回ってきていると思います。

ニュース番組で新しく出たスマホアプリの紹介がされていて、コメンテーターの方が
「今の技術は凄いですね、私なんかスマホを上手く扱えないからアプリを使いこなせる自信がない」
というやり取りを見て、素直に辞めてしまえと思いました。

私自信、栂池から八方に移った時に雪崩管理で相当苦労をしました。
栂池で雪崩管理をしていた頃は仲間に恵まれており、感覚だけで自然を捉えていたため
環境が変わり、磨いてきた感覚だけでは通用せず、初年度は本当に苦労しました。(感覚は日によって変化するため、アテにはなるが最終的には自分自身を守ってはくれない)

それを乗り越えるためにどうしたかと言うと
スキー場内で雪崩が発生した日の気象観測データを集めて、どのような気象条件で雪崩が発生しているのか
統計を取り、仮説を立てて、検証を繰り返し、データをもとに自分なりの理論を組み立てていきました。
そうする事で、雪崩発生にはある一定の法則があるということが見えてきました。
(簡単に言うと雪崩発生する丁度良い風速帯がある、弱すぎる風は雪崩を生めないし、強すぎる風は雪崩を作れない(雪質により変動する)

八方では風速帯や雪温、気温ではこういった雪崩が発生するだろうから、このように爆薬や量を調節して使用しなさいなどのマニュアルが出来上がってきており、若い子達を中心に私が居なくても雪崩管理が実施できるようになってきました。

それができるのも
感覚だけではなく、気象観測機のデータを用いて過去の事例から予測を立てて雪崩管理を行っているため
大きく予測を外すことが無くなってきました。
(例えば雪崩管理のリスクというのは雪崩だけに捉われがちだが、自分たちのスキー場では爆薬も使用するため、取り扱いをミスれば即死する可能性のある爆薬を極力使用しないというのも重要な選択であると私は考えています、爆薬の取扱いをミスって死亡した事例は海外にいくつかあります)無闇やたらに使えばいいというものではない

大切なことはチーム内での雪崩に対する認識を共有し、過去のデータをもとに現場での感覚を共有していくことだと私は思います。

感覚だけに頼るのがいけないと言っているわけではありません。
私自身、感覚を研ぎ澄ますということをとても重要視しているし、力を注いでいます。

残念なのはいくら感覚を研ぎ澄ましても感覚は世代を超えない(引き継げない)ということ
物事は引き継いで行かねばならない、積み上げてきたものを自分達の代で終わらせてしまうのはあまりにも勿体ない

終わりに

取り上げたくない内容を今回は書いてみました。
何かを批判したいわけではなく、時代の変化と共にデータ化に取り組んでいるところは既に取り組んでいて、そういったスキー場さんほど世代交代が上手くいっているように思う。

日本をまわってこれは絶対に事故が起こると危機感を抱いたので書かずには居られなかった。
この文章一つで事故が防げるとは思っていません。

アフターコロナのシーズンを終えて思うのは
白馬では、コロナ前の8割強までインバウンドが戻ってきているらしく
スキー場でお客さんの層を見ていて感じたのは富裕層の方々がとても多く
世界的な物価高では当面の間は富裕層の方々がメインの客層になってくるんだろうな思う

そんな中で、もしスキー場内で事故が起こってしまったら日本のスキー場はどうなってしまうのだろうか…

近頃のスキー場の安全対策はインバウンド向け(訴えられないように)にFISルールや規則に則った安全対策、規制物の設置などを行うようになってきた。

彼らは文化が違う、事故が起こった時にどのような安全対策、管理を行なっていたのか問われた時に
「感覚でやっていました」では通用しないだろう…

事故は起こらないことが1番

起こると予測して対策を行った上で、事故が起こらないことが重要だと思います。

運や感覚だけに頼るのは辞めませんか

動画配信(有料)のご案内

冬季に『白馬雪崩の学び舎』という勉強会を不定期で開催しております。
この12月に寒地土木研究所の主任研究員の原田さんと地吹雪雪崩ついて対談した時の動画の配信を開始しました。
動画では原田さんによる地吹雪雪崩の説明から、森山は空間スケールで捉える雪崩、情報について話をしております。
上記の雪崩が発生する風速帯についても実際に観測機のデータを用いて説明を行なっており、私がどのように雪崩を捉えて、こういうところで雪崩は発生しているというかなり突っ込んだ話までしております。

詳細、動画の購入は以下のリンクよりお願い致します。

https://manabiya.base.ec/items/71817020

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