各地で猛威を振るったグライドクラック、全層雪崩への考察
各地で被害をもたらしているグライドクラック、全層雪崩について私なりの考察を書いてみたいと思う。
3月13日の夜の降雨を境に各地で全層雪崩が猛威を振るった。
営業中のスキー場、営業時間外のスキーコース、山など
場所は様々だが、日時は近いものがあると思う
全層雪崩発生の原因は?
営業中のスキー場で雪崩が発生するというのはあってはならないことで…
雪崩管理をしている自分からしたら想像しただけで顔面蒼白で生きた心地がしない
不幸中の幸いではあるが、各スキー場で発生した全層雪崩でゲストが巻き込まれたと言う話は今シーズン耳にはしていない。
なぜ全層雪崩が発生したのか?
・気温が急上昇したから
・発生区の草刈りをしていなかったから
この二つが大きく言われている事だと思うし、今回全層雪崩がスキー場関係者の方も同じ事を言っていた。
本当にそうなのだろうか?
例年であっても急激な気温上昇はいくらでもあったし、草刈りをしていない斜面なんて無数にあったはずだ。
自分が考えるには上記の2つは相対的に見て一つの要因でしかないと考えている。
*logicalworksさんの気象観測データより引用
写真は22シーズンの標高1700mアルペンクワッド降り場に設置されている気象観測機の気温データ
グラフからは3月10日を境に気温が上昇し始め、14日にピークに達している。
ここだけを切り出せば気温上昇が直接的な原因として捉える事は可能だと思う。
気温上昇だけが原因だとしたらどのように対策したら良いのだろうか?
急激な気温上昇が無いように祈るのか。
数年をかけて温暖化対策に取り組むのか?数年後には雪崩が発生しない事を願って…(冗談抜きにこの問題は一人一人が考えて日々取り組むべき問題だと私は思っている)
原因を探る
今年度は雪の多い年となったがそれ以上に印象的だったのは「寒かった」と言うこと
上のグラフでも解るように低温が続き、12月の頭に雨が降ったくらいで3月に入るまで
山の上では雨が降らなかったように記憶している。
12月、1月は晴天率も悪く、太陽を拝む機会はほぼほぼ無かった。
何が言いたいのかと言うと、今年は寒くて、温度勾配が少なかったということ
そうなると何があるのかと言うと積雪層が一定なのである
寒くて、太陽も出ないから しまり雪 きりで雪の変態も進まず(寒い、雪が冷たい、外的な要因がない)
スキー場からしてみれば、ゲレンデにアイスバーンが形成されないので良い事づくめなのだが
雪崩を見たい私としては本当に雪崩をみる事のないシーズンでつまらn……
話が逸れたが、何が言いたいかと言うと
とにかく降り積もった積雪層は一定で中に氷盤や霜ザラメ系の結晶(強い層が形成される事はほぼほぼ無かった)
霜ざらめ系の結晶が積雪層内に形成されなかった故にざらめ化、ゆっくりとした粗大化が行われなかったために
全層雪崩が発生したと私は考えている。
ざらめ雪の仕組みについては以前、先生が WAKAVAの会に投稿してくださった記事を読んで頂きたい↓
要因は水と粗大化
全層雪崩の発生したであろう要因をまとめていきたいと思う
先の章でも述べたように、今年は低温で温度勾配が少なく、雨が降らなかったために
積雪層内はしまり雪が大半を占めていた。
ここに雨もしくは融雪水が絡むとどうなるか
新雪もしくは焼結系(こしまり、しまり雪)は球形化が進行していないため
雪粒の間には空洞(空気の層)があったりゴツゴツしているため水を含み、留めやすい性質がある
水を含むことで急激に粗大化(球形化)が進む
急激に粗大化が進むことで大きな雪粒が小さな雪粒の吸収することで弱い部分が生じる
降雨や融雪水に焼結系の層が水を含む事で表面張力が生ずる
表面張力が生ずる事で水を大量に含んだ層は水平になろうとして動き出す。
(水を含み留めるのは雪質、造晶系か焼結系かによって変わってくる)
簡単に言えば、寒くて、寒暖差がなく、ハイシーズンに雨が降らず、積雪内に強い層(霜ざらめ系)が形成されなかった、しまり雪が積雪層内に多くあった、3月の気温上昇、雨などの影響で水を多く含みやすい層が残っており、急激に雪が変態(球形化、粗大化)した事で歪みが生じ、各地でグライドクラック、全層雪崩が猛威を振るったのではないかと考えた。
大切なのは相対的に要因を考えること
自然現象である雪崩を相手にする時に特に気をつけているのは
相対的に物事を考えるようにしているということ
例えば、風速での雪崩発生を追ったとしよう。
風速データである程度まとまった結果が見えてきたら次に行うのは気温や雪温などの要素をプラスして徐々に全体を掴むようにしていくということ
気温が急激に上昇したから、斜面の草刈りをしていなかったからと言うのは一つの要因でしかないと思う
事実、白馬のあるスキー場では草刈りもして、シーズン中にオープンして何人も滑走していたコースで全層雪崩が発生している。
八方尾根スキー場でも全層雪崩には繋がってはいないがセントラルコースに大きなグライドクラックが開いてしまい、コースの部分閉鎖を余儀なくされた。
ここは草刈りをして、ハイシーズン中に多くの方が滑走していたし、何なら圧雪者による圧雪作業も行われていた。
そう考えると要因の一つとして残るのは急激な気温上昇しか考えられないわけだが
例年を考えると急激な気温上昇をしてもグライドクラックが発生しなかったシーズンもある。
急激な気温上昇は一つの要因でしかないという事が見えてくるはずだ。
八方尾根スキー場の全層雪崩対策
八方尾根スキー場では毎年、決まった場所が全層雪崩で発生する。
積雪が少ないシーズンが続いていたので例年であれば問題無かった場所も
今シーズンは積雪が多かったため、最新の注意を払って観察をしていた。
何を注意して見ていたかと言うと、発生するポイントの積雪が全てざらめ化になるタイミングを見ていた。
積雪がざらめに変化しないと全層は来ないと感覚的に感じていたので
日々の巡回ではストックを刺したり、雪を掘っては新雪がざらめに変わるタイミングを伺っていた。
何故ざらめ化になるタイミングを見ていたかというと
上に乗っていた新雪層がざらめにならない限り、日射や気温上昇で雪が溶けても新雪層に水が留められ、底まで水が浸透する事はないと感覚的に感じており、積雪層が全体的に水に包まれない限り全層雪崩は来ないと分かっていたのでこのタイミングを測っていた(ざらめ雪に1度変態してしまえば水は含みにくくなる、)
1番危ないのは変態してざらめに変化したタイミングでこの時を見逃してはいけないと思っていた(水を含みやすいので粗大化が進行し、表面張力が生じるため全層雪崩の危険性が高い)
雪崩が発生したのは3月5日12時前後
その日、朝の巡回で積雪層がざらめに変化したことを確認した。
その日は週末の土曜日で天気が良く、日射もガンガンと照っていた。
11時過ぎにもう一度、確認に向かったところ雪が急激に動いて、クラックが生じているのを見つけた。
危険性を感じたためコースをネットで規制してクローズする判断を下した。
これで全層が出なければ、数日コースがクローズすることになるから嫌だなぁ〜と思い、夕方に爆薬を使用して全層雪崩を処理してしまう計画を立てた。
どの場所にいくつ爆薬を設置するか、現地を確認して、本部に戻りプランを立てている時に
巡回から戻った隊員から全層が発生しましたとの報告があった。
最初こいつは何を言っているんだ?と理解出来なかったが、良くよく聞くと、コース閉鎖をした30分以内に全層雪崩は発生したらしい…
急いで現地に確認に行くと全層雪崩は林道を埋め尽くしていた。
今まで全層雪崩の発生予想を的中させた事が無かったので良くやった!自分という気持ちと
自分が発生のほんの数十分前にそこに居たこと、スキー場の混み合う土曜にコースを閉鎖して無かったら…
と考えるとゾッとした。
全層雪崩対策
上記の例は本当に運が良かっただけだと私は思っている
変化を見逃さないように最新の注意を払っていたが、何らかの要因で巡回のタイミングがもう少し遅れていたらと考えると…首の皮一枚だなと思う。
先日、若林先生がこのブログに
と言う記事を投稿してくださった。
この話は以前からお伺いしていたが改めて、記事を読むことで
その時代から何も進歩していないのであれば私たちは先人達に顔向けする事はできないと思ったし
進化していかなければならないと思った。
現代において雪崩処理をするとすれば爆薬が一番に上がってくると思うが
爆薬を取り扱うと言うのは容易な事ではない、資格申請含め、使用の技術も含め長い目で見ていかなければならない
何より、全層雪崩が発生しそうな場合、グライドクラックが生じた場合
サポートを崩す事で雪崩を処理してしまう事は可能だが、そのシーズンのコースの復帰は難しいだろう。
雪崩対策という観点で現代で出来る事はないのだろうか?
私なりの提案をしてみたいと思う
物理的な問題があるだろうが
毎年グライドクラック、全層雪崩が発生する斜面に
シーズン初めとシーズン途中に降雪機で雪を吹き付けるというのはどうだろうか?
降雪機の雪を吹き付ける事で積雪層内に強制的に強い層(氷盤など)を形成してしまう。
そうする事で雨が降ろうが、急激な気温上昇が起ころうがグライドクラックや全層雪崩は発生しにくくなるのではないだろうか?
今各地で降雪機の導入が進んでいるので、費用を抑えて対策するのであればこの方法が一番ではないだろうか?
ぜひ、各地のスキー場で試して、結果を知らせて頂きたいと思う。
営業中にスキー場で雪崩が発生するという事はあってはならない
もしあったとしたら原因を究明して対策を講じていく必要性がある。
皆で知恵を出し合えば、特殊な技術も知識も必要ないのではないだろうか?
この記事が各スキー場の安全な営業に繋がるのであればこんなに嬉しいことはないよね