21年2月5日八方尾根崩沢で発生した乾雪煙型雪崩(size4)その1

2021年のシーズンはコロナ禍という事もあり海外からの旅行者はなく
ゲレンデにはパウダーが有り余っており、降雪回数も量も近年に比べたら多く
ゲレンデパウダーを楽しむことが出来た。

12月後半〜1月は大風が吹く事もなく、風の多い八方でもリフトが止まる事は稀で
雪崩管理に入る事も少なかったと記憶している。

周りから聞こえてくる声は
さらっと雪が積もり、軽い雪に数年ぶりに白馬本領発揮!という感じで
こんなシーズンは二度と訪れないんじゃないかと皆が口々に言っていた。

様子が変わったのは2月に入ってから

2月4日に以下の記事をFacebookに投稿した。

「大きい事故が起きる気がしてならない」

地吹雪雪崩についてや、その時の天候や状況変化が書かれているので是非一読頂きたい
1月には降ることがなかった、雨やみぞれが山で降り、風が強まり、山の様子は一変した。

1月までと山の様子が明らかに変わり、大きい雪崩が発生する予兆、嫌な予感がしたため現場からのメッセージを発した記録だ。

2月前半の天候

                                    {崩沢雪崩発生}

日付 2月1日 2月2日 2月3日 2月4日 2月5日 2月6日 2月7日
天気am CLR OVC X SCT SCT FEW SCT
天気pm X X BKN X SCT_ CLR X
降水am Nil S1 S2 Nil S-1 Nil Nil
降水pm S-1 S1 S1 S2 Nil Nil S1
湿度 91 98 92 90 80↓ 58 54
時間雨量 16.5mm 14.5mm 3mm 1mm 5.5mm 0mm 6mm
連続雨量 16.5mm 27mm 3mm 0.5mm 3mm 0mm 6mm
HN24 1cm 30cm 20cm 15cm 16cm 0cm 0cm
HST 0cm 30cm 37cm 38cm 31cm 24cm 0cm
H2D am 0cm 30cm 20cm 12cm 9cm 0cm 0cm
H2D pm 0cm 7cm 20cm 15cm 0cm 0cm 8cm
HS 192cm 225cm 237cm 240cm 238cm 217cm 207cm
降雪重量 - 243g 83g - 100g - -
降雪水量 - 55mm 18mm - 22mm - -
密度 - 184kg/m3 94kg/m3 - 142kg/m3 - -

*定点観測データは標高1400m八方尾根スキー場兎平によるものam08:00 pm15:00に観測
*降雪重量、降雪水量、密度はam08:00にHN24から計測したもの(サンプリングチューブ44π)
時間雨量、連続雨量はコルチナスキー場パトロール隊に提供して頂いたもの(観測所の標高840m)
もし上記の記号の意味が分からないのであれば、雪崩ネットワーク主催の雪崩従事者レベル1を受講して頂きたいと思う

アメダス白馬観測所のデータによると2月1日18時より白馬村では雨が降り出した。
標高1400m前後で雨はみぞれへと変わり、標高の高い山でも湿った雪が降った事が予測できる(2月2日の降雪重量を見て頂けたら湿った重たい雪が積もっているのがお分かり頂けると思う)

2月2日の雪崩管理では標高1340m↓では湿雪点発生雪崩が頻発した。
流動距離の長さ、ボリュームがある事からこの日は危険と判断して八方尾根スキー場内にあるフリーライディングエリア「おむすび」を終日クローズしている。

それまでなりを潜めていたウインドスラブが発生し始めたのは2月3日から

2月の風速


*観測機のデータはLogical Worksさんが八方尾根スキー場に設置してあるものから引用

観測機のデータを見る事で2日の夜中から急激に風が立ち上がっているのが分かる。

雪崩の準備が整った、雪崩を作るのは風と氷盤

1日のみぞれにより、削剥面には氷盤が形成される準備が整い、2日の夜中から強い風が吹き始めた。
風が吹く事で雪が飛ばされる様(地吹雪)は容易に想像できると思う。

風で飛ばされた雪が雪面を転がる際に削剥面に氷盤が形成されている事で、雪は効率良く細かく砕かれる。

細かく砕かれた吹雪微粒子(特に粒径0.2mm以下で角っぽいギザギザ断面をもつ)はパワー(緻密化という隣接粒心同士の接近:最速凝縮)にあふれて積雪の上層を収縮変形させ、雪崩の元となる。

地吹雪雪崩の概念を知りたい方は
AVALANCHIST-Theory Prologue 1
を読んで頂きたい

雪崩サイクルの始まり、スキー場内でサイズ2祭り

2月3日のストームスラブを皮切りに八方尾根スキー場では近年稀に見る雪崩祭りとなった。

日付 時刻 場所 タイプ 発生原因 規模 破断面厚み 破断面幅 流動距離
2/2 0800~ 1340m↓ 湿雪点 Sc 30cm 200m
2/3 7:30 菱岩周辺 ストームスラブ Sc 2 20-30cm 100m 400m
2/5 7:30 展望バウンダリ ウインドスラブ Sc 2 40-60cm 40m 300m
2/6* 夕〜夜 防止柵北側 ウインドスラブ Na 2 100-200cm 40m 150m
2/9 7:30 菱岩

おむすびC.D

ウインドスラブ

ウインドスラブ

X

Sc

2

1.5

20-30cm

30cm

25m

25m

500m

100m

2/9* 夕〜夜 防止柵南側 ウインドスラブ Na 2 60-80cm 50m 300m
2/11 7:30 おむすびC.D ウインドスラブ Sc 2 40-60cm 40m 300m

スキー場内でこんなにもサイズ2の雪崩が発生してもいいものか?メンバーに恵まれていたから乗り越えられたものの…

30年選手の大ベテランパトローラーが八方でこんなに大きな雪崩が続いて発生したのは見た事がないと仰っていた、それだけ気候も変化してきているという事だろう。

定点観測のデータと風速データを照らし合わせ、雪崩発生の結果を見る事で風が雪崩を作り出しているという事がお分かり頂けるはずだ。

発生した雪崩は表記上ウインドスラブとしているが、実態は若林先生が提唱された地吹雪雪崩だ。

全てがフレッシュな降雪の基、積雪上層部で発生している。

以上が2月5日に崩沢で発生したsize4の前後の天候と雪崩の記録

次回は崩沢で発生した煙型雪崩の調査に入った記録を書きたいと思う。

 

 

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