一枚の写真
一枚の写真から聴こえてくる様々な反応
この写真は昨シーズン、2月6日の深夜に自然発生で発生した雪崩の破断面調査に入った時の写真
とてもお気に入りの写真でブログのトップ画像にも使用している。
なかなかこの厚みの破断面を目の当たりにすることは無く、厚みが印象的だった事、破断面は鉛直ではなく、斜面に対して直角であるという事が分かり易く表現されており、写真から得られる事は沢山あり素晴らしい写真だと思う。
当初、この写真を撮るつもりはなかったが、一緒に破断面調査に入ったTくんが調査終了後に、嬉しそうに「1枚写真を撮って貰えませんか?」と言ってきた。
おもむろに彼はプローブを取り出して、破断面の境まで歩いて行き、破断面にプローブを添えて満面の笑みで「お願いします」と言った。
そう彼は満面の笑みなのである(笑)
流石にニコニコ笑顔の写真を掲載するわけにもいかず、引き気味の写真を使用しているが彼の満面の笑みは、調査を無事に終えられた安堵感か、それとも俺が仕留めたぞ!と言わんばかりの溢れるものがあった。
あとで見返してもいい写真だなぁと思う、あの時写真を撮る事を提案してくれたTくんには感謝したい。
この写真は見た時に何を思いますか?
多くの人は
「怖い!」とか「破断面が大きい!」とか「そこに立ったら危険だ!」
とかの感想を抱く事だろうと思う。
正しい反応だと私は思う、自然界の大いなる力を目の当たりにした時に恐怖を抱くのは正しい感情だし、恐怖を抱かない方がおかしいのではないのかとさえ思う。
実際、破断面調査に入るときに3人で入り(うち1人は私)同僚の2人は破断面に大きさに圧倒されていたし、破断面の下に降り立つ事に恐怖を抱いていた。私も久しぶりに見る破断面の厚みに身体の中で心臓が強く脈打つのを感じた。
今日は何について書きたいたのかと言うと
雪崩関係者からある声が聞こえてきた。
この写真に対して「安全対策に疑問がある。」
それを聞いた時に私は
え……はぁ!?と思った。
ハッキリと述べておきたいが、一般の人から上の言葉を言われたのなら私は何も感じないし、相手にもしていなかったと思う。(それが正しい反応だと思うから)
それが関係者から言われたことで少なからず、憤りと悲しみに似た虚しさを感じた。
大前提として判断を行なった上で破断面調査に入っている。
直接言われたわけではないので言葉の真意は分からないが
発言をされた方はロープを付けてこの場で写真に納まっていたら満足だったのだろうか?
それともTくんの満面の笑みが不適切であったのだろうか…なるべく表情が認識出来ない写真を選んだつもりではあったのだが…笑
そもそも論で、破断面が崩落しないと「判断」した上で破断面への調査へと入っている。
前述した通り、破断面の調査に入ろうと近づいた際に同僚二人は破断面の大きさにビビり、破断面の下に入る事を躊躇っていた。(見てたらごめんね、私にはそう見えたし感じた。)
そりゃ自分の背丈より大きい破断面に入る事は躊躇われる、ブロックが崩壊しようものなら自分が潰されるのは容易にイメージする事ができる。
2人の恐怖心を和らげるためにも私が先行して、ある方法で破断面が崩壊しない事を確認したあと、比較的破断面の厚みが薄く、降りやすい場所から破断面下へと降り立った。
ここで理解して頂きたいのは、ロープを付けるという事はある一定では安全対策として効果を成すかもしれないし、理解もできる。
でも違う側面も考えなくてはならない。ロープを取り回すという事は行動や時間に制限がもたらされるという事
破断面調査や雪崩管理を行う時には迅速な行動というのが絶対条件である。
雪崩管理者としてリスク(危険)を回避するために行う思考パターンがあるがこれはまた別の機会に詳しく書いてみたいと思う。Situational Awareness (SA)という概念だ。
要はどのリスクを選択し、受け入れて、どのリスクを行動により排除するか、ということ
リスクをゼロにする事は出来ない。
今回の破断面の調査に当たって、自分の経験から破断面が崩落しない事は見て取れた、それでも仲間の心理的不安を軽減するため、最終確認を行うために崩壊しないか確認した後に問題ないと「判断した」という事を理解して頂きたい。
リスクの受け入れ方、対策の仕方は人それぞれだと思う。
昨シーズンに尊敬してやまないコルチナスキー場のパトロール隊長が雪崩管理の映像をインスタにあげたことで物議をかましたという事が記憶に新しい
それは何百mにも及ぶ、巨大な雪庇をスキーカットで一撃で処理するという衝撃的な映像であった。
その動画を見た人からは色々な声が寄せられ、凄い!とか危険だという声が多くあった、中にはロープを付けて雪崩管理を行えなんて声も挙げられていた。
でも考えて貰いたい。
その巨大な雪庇を一撃で処理出来ると踏んだからコルチナのパトロール隊長は動画を撮影したとは思いませんか?
要は狙って撮影しているという事と、一撃で雪庇を処理する事が出来るだろうと予測しての行動であったと私は思います。
私も雪崩の映像が欲しい時は狙って撮る事があります。
それはこの日なら良い雪崩が発生するだろうし、良い絵が撮れるだろうなとある程度の予測が出来るからです。
雪崩の発生はある程度予測出来る。
そうで無ければ雪崩管理は出来ないわけだし…
破断面が崩落しないと予測、判断したから破断面調査に入るわけで、破断面が崩落すると踏んだら破断面の下に入らないわけですよ。
前述した言葉が囁かれるたびに私は雪崩の現場を知らない人の発言だなと思うわけです。
最後に
誰かの安全とは誰かが危険(リスク)を犯した先にあるもの
だという事を認識して頂きたいなと思います。
今あなたが日々の暮らしに安全や安心を感じているのであればそれは誰かが見えない所で危険を犯して安全を確保してくれているからだと私は思います。
何のために危険を犯してまで破断面調査を行うか、雪崩の本質を知り、理解が進むことで悲しい事故が一つでも無くなる事を願うからです。